金融庁の中間とりまとめについて(1:ビジネス部門)

金融庁の中間とりまとめについて(1:ビジネス部門)

前回の記事で、金融庁が発表した「仮想通貨交換業者等の検査・モニタリング中間とりまとめ」について、総論として、仮想通貨業界に対して金融庁が大きなメッセージを発出していることについてはお知らせしました。

実際にどのようなメッセージなのか、詳細を数回にわけてまとめてみます。なお、引用箇所の太字は著者が編集しているもので、原文には太字になっていません。

今回取り上げるのは、ビジネス部門(第1線)です。

1.ビジネス部門(第1線)

1−1.取扱い暗号資産の選定

(多数の業者で認められた事例)

取扱い暗号資産の選定に当たっては、暗号資産の利便性や収益性のみが検討されている反面、取扱い暗号資産ごとにセキュリティやマネロン・テロ資金供与等のリスクを評価した上で、リスクに応じた内部管理態勢の整備を行っていない。

取り扱う暗号資産ごとに、セキュリティリスクを評価すべきとの記載があります。暗号資産のセキュリティリスクとは、なんでしょうか。

ウォレットの紛失・盗難に関するリスクや、ハードフォークによる互換性の喪失リスクのことを指しているものと考えられます。そうでなければ、暗号資産であるかどうかの問題にならないからです(資産価値が突然ゼロになるリスクもありますが、それは暗号資産に限った話ではありません)。

マネロンに対するリスク評価については、コンピュータシステムの安全性に直結する問題ではありません(マネロンが行われた場合、不正な資金の流れができてしまうという事実は大変重いのですが、マネロンが行われたことだけを理由として、コンピュータシステムが停止したり、不正な動きをしたりするわけではありません)。

ただし、証券会社では、入出金口座が本人名義ではないことが発覚した場合、即時に利用停止としています。このように、コンピュータシステムによるマネロン防止対策を着実に実施せよという金融庁のメッセージと理解すべきでしょう。

なお、証券会社の場合は、仮借名取引(いわゆる架空取引)だけではなく、インサイダー取引についても排除する必要があるので、この点には注意が必要ですが、マネロン防止対策がインサイダー防止についても有効に機能しているということは事実です(少なくとも、本人名義の口座でなければ取引ができず、さらに厳密な本人確認を実施しているのですから、インサイダー取引が検知しやすくなります)。証券会社と同様の対策を、仮想通貨交換業者が実施していないことに対して、金融庁だけではなく、警察庁も相当に強いメッセージを出していると理解すべきでしょう。

リスクに応じた内部管理態勢とは、それぞれのリスクがあるということを認識した上で、そのリスクを回避するための管理をすぐにできるようにしなさい、ということです。

(注意:体制ではなく態勢となっていることに注意してください。体制とは、役割分担を決めるだけですが、態勢とは、直ちにその行動が取れるように準備しておくことを指しています。)

1−2.暗号資産の不適切な販売

(複数の業者で認められた事例)

暗号資産を販売するに際して、利用者の年齢、取引経験、資力等を考慮した取引限度額の設定や販売・勧誘を開始する基準を定めていない。

こちらは、主に勧誘に関する基準であって、金融に関するコンピュータシステムの安全性には直接的には関係ありません。ただし、勧誘に関しては、金融業界における基準が明確に規定されています。これは、金融商品取引法や金融商品販売法に規定されている内容にそって各業界で業界標準として定められているところ、暗号資産に関しては存在していなかったことを指摘しているものと考えられます。

金融商品の販売等に関する法律:http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=412AC0000000101&openerCode=1

全国銀行協会:投資する際に消費者を守る法律:https://www.zenginkyo.or.jp/article/tag-c/3783/

日本証券業協会:協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則:http://www.jsda.or.jp/shiryo/web-handbook/101_kanri/files/170214_toushikanyu.pdf

損害保険協会:「金融商品の販売等に関する法律」への対応の考え方:http://www.sonpo.or.jp/about/guideline/pdf/index/action_kinyushohin.pdf

生命保険協会:行動規範:http://www.seiho.or.jp/activity/guideline/pdf/kihan.pdf

全銀協、日証協、損保協、生保協のすべてが、「勧誘方針について公表する」と明記しています。このため、各金融機関では、サイト上に勧誘方針を掲載しているのですが、仮想通貨取引業者においては、勧誘方針が存在していないか、または公表されていない業者が存在することを金融庁が問題視したものと考えられます。

(個社で認められた事例)

・暗号資産を販売するに際して、当該暗号資産のリスクを正確に把握していない第三者に販売の勧誘を委託しているが、当該第三者による勧誘行為等の内容を把握しておらず、事後的な検証も行っていない

ここでいう「第三者」とは、金融機関では「代理店業務」がもっとも近い形態になるでしょう。「事後的な検証を行っていない」と明記することで、代理店に対する統制が効いていないことを、メッセージとして強く打ち出しています。

・自社で発行する暗号資産(以下「自社発行暗号資産」という。)を販売するに際して、1単価当たりの販売価格を1ドル当たりの円換算レートと連動させるなど、合理的な根拠に基づかない価格設定を行っている。

資産であれば、その価格は合理的な根拠に基づいて算定されるべきである、ということの裏返しです。根拠のない価格設定を行うことで、投資家が合理的ではない価格設定に基づいて投資判断を行うことで、結果として投資家が保護されないことを指摘しています。この「中間とりまとめ」では、あえて仮想通貨ではなく「暗号資産」と明確にしているところからも、投資家保護の姿勢が強く打ち出されています。

役職員が数十回にわたり高値の買い注文を対当させることによって暗号資産の価格を不当に釣り上げるなど恣意的な価格操作が行われている。

非常に重い問題です。相場操縦やインサイダー取引に該当しますし、後述する自己資金での取引ということであれば、自己勘定取引にも該当します。証券会社であれば、かなり強いペナルティを受けることになります(業務停止命令が出てもおかしくないレベルと推測しています)。ただ、暗号資産に対して、そこまでのコンプライアンスが徹底されていないことが大きな問題であると認められます。これは、システムの問題というよりも、各事業者の企業文化の問題と断言してもよいでしょう。

ちなみに、株式のインサイダー取引は、儲かった金額以上の罰金が設定される仕組みになっていますし、社会的な制裁を受けることになりますので、絶対に行ってはならない取引です。

1−3.広告宣伝

(個社で認められた事例)

・テレビCMにおいて、有名人が特定の暗号資産を連呼するなど、利用者の購買意欲を煽る一方で、暗号資産のリスクに関する表示は数秒に留まっている。

利用者が検証できない投資収益の表示や特別割引期間の設定などを記載した広告を行っている。

・取引の内容やリスクの適切な開示が行われているかを事前に確認するなどの広告内容の審査等が行われていない。

こちらはまとめて解説しますが、金融商品取引法や、金融商品販売法では、広告や宣伝に関する規制があります。もちろん、各業界でも、広告(これはテレビCMに限らず、パンフレットやバナー広告といった、広告として利用されるすべてものを含んでいます)や宣伝に関する業界自主基準を持っています。

他の業界でのわかりやすい例でいえば、ビール業界の「お酒は二十歳になってから」が挙げられます。お酒のテレビCMの場合、「お酒は二十歳になってから」は、15秒以下のCMであれば1.5秒以上、30秒以上のCMであれば2秒以上表示することになっています。

貸金業の場合も同様で、貸付条件については15秒以下のCMでは1.5秒以上表示することになっています。このため、暗号資産のリスクを「数秒」も表示していれば十分ではないかという気もします(少なくとも、この資料では数秒と言っている以上、お酒や貸金業のCM基準より長い時間表示しているように見受けられます)。

金融庁がなぜ問題視しているのか、この資料だけでは判断できません。他の業界では表示する文字の大きさや、色使い、表示するタイミングについても規定されていることから、そういった基準が業界に存在しないことを指摘したかったのかもしれませんし、秒数の問題ではなく、単純に他の業界と比較して短すぎる、ということを言いたかったのかもしれません。

今回は、FISC安全対策基準というよりは、業界としての規制に重点が置かれた内容となりました。次回は「リスク管理・コンプライアンス部門(第2線)」について取り上げます。

 

 

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